慎ましく、呑んで食べて

 昨年の10月7、8、9日に韓国に行ってきました。首都ソウルから南に5キロほどのところにある京畿道水原市の奉寧寺を中心に開催された『コリアン・テンプルフード・フェスティバル』に出席するためです。イベント中に行われる、日台韓の精進料理に関するパネルディスカッションで登壇する日本のパネリストが、私の修業時代に大変お世話になった先輩で、その方の付き人として同行させて頂いたのです。

 今回はそのイベントについて・・・・ではなく、その訪韓で心に残ったことについてお話しします。

 7日に水原市に着き、イベントの主催者が手配してくれたホテルにチェックインしました。 翌日のパネルディスカッションを控え、先輩がその準備もあるということで、その日は早々にホテルのレストランで夕食を摂りました。

 旅の軽い疲れと開放感も手伝って、ビールを頼んで先輩と乾杯。メニューにあったステーキを頼んで食し、しばし談笑して、ビールもビールも2杯3杯とおかわりし、多少酊しながら部屋に戻り、あわよくば、パネルディスカッションが終わった明晩にはご当地名物の水原カルビでも食べに街に繰り出そうか、と算段をしながらその日は就寝しました。

 次の日、現地ガイドが迎えにきて、会場に向かう車の後部座席に先輩と乗り込むと、少し遅れて助手席に乗り込んだガイドがこちらにクルッと首を向け、となりの運転手に多少憚るように

「昨日、肉とお酒を呑み食いしましたか?」

と聞いてくるのです。前晩の食事の席には彼はいませんでした。少し怪訝に思って

「食べたけど、どうして?」

と聞くと、どうやらレストランのフロアスタッフが、

「日本のお坊さんが肉と酒を注文しているが、提供して良いのか?」

と主催者側に「通報」したようなのです。

 あまりのバツの悪さに旅の開放感もすっかり萎んでしまいました。結局その日は、主催者が用意した菜食レストランで夕食を済ま せ、結局お目当ての,生臭ものにありつくこと無く、帰国の途についたのです。

 文化の違い。と言えば簡単ですが、海外の仏教国に行くと、いつも私は僧侶として、つくづく「日本の常識は世界の非常識」ということを思い知らされます。

 日本以外の仏教国には戒律が男僧250、尼僧は350余りあると言われています。それに比べて日本の曹洞宗は十六条戒。その数の差以上に、戒律を守ろうとする意識の差が歴然としているのです。おおらかで、いい加減な日本人にとって、そのような杓子定規な規範意識はそぐ わないのかもしれません。しかし我々僧侶には、少なくとも食事に対して相当な謙虚さがなければなりません。この食事が眼前に供されるまでの経緯、どれだけの人の手を経ているのかを思い、それに見合う自己であるかを省みて、ただ猥雑に貪食することを戒めるのが戒律の本意です。僧侶としてその戒律を自己 に課した限りは、せめて慎ましく飲食すべき、と思い改めた次第です。(副住職 記)

宗淵寺/願興寺

島根県松江市にある曹洞宗寺院・臥龍山宗淵寺と、境内に奉祀されている出雲観音霊場第二十三番札所・新美山願興寺からのお知らせや山内行事の報告、さらに住職や寺族、檀信徒の日暮らし、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつづっています。

0コメント

  • 1000 / 1000