陶彩画『夢』と前立観音

「陶彩画」をご存知でしょうか?

作家・草場一壽さんが生み出した、有田焼の絵付けの手法を用いた陶製の絵画作品で、描画そのものも印象的ではありますが、何よりも特徴的なのは「陶製」であることと、長年にわたる釉薬などの試作によって、「色彩の変化」が楽しめることです。(詳しくは草場一壽さんの公式HPや各種SNSをご参照ください)

元々は今秋の晋山式(住職就任式)に向けて、山号にまつわる龍画を仕入れたいと思い、ネットで物色していたところ、草場さんによる陶彩画の龍画に出会ったのがきっかけでした。

調べるうちに、偶然にも私の修行時代の仲間も陶彩画に魅了され、すでに作品を将来し、実際に草場さんをお招きしたイベントを開催していたことが分かりました。


草場さんの作品は龍とともに神仏が主なモチーフとなっていて、中でも観音様がモチーフの作品が多いことから、まず思い立ったのが、毎月ある観音講の恒規法要で、秘仏の代わりに参拝者の目の届く対象となる「前立仏」として草場さんの観音画を飾り、月ごとに替えて参拝者にご尊容をしのび親しんでいただくことでした。

現在まで『龍騎観音』『宝珠観音』『賛嘆』『アイリメンバーユー』の4つの観音画を所蔵し、月替わりの前立観音としています。



そして今年の1月の初観音に、新たな観音画を飾らせていただきました。

作品名は『夢』


2023年に発表された草場さんの新作で、観音様をイメージした童子が龍の中に抱かれて安らかに眠っています。

この絵を見た瞬間、私はこれまで以上に魅了されました。

11月に大阪で個展があり、そこで原画が発表されるということで、実際に大阪に見に行きました。そして、それまでの観音画は複製でしたが、この『夢』に関しては原画を個人で購入し、寺に寄贈することとしました。


冒頭にも触れましたが、陶彩画の原画と複製画の最も大きな違いが、光の当たり方で色彩が変化することです。

『夢』の場合、龍に特殊な技法が施されており変化します。これにより、絵画自体は静止画でも、どこか動的な質感が加わり、不思議な生命力を感じます。

今回、陶彩画『夢』の原画を求めようと決断した理由。それは観音画もさることながら、元々は龍画を求めていたこと。そして、この作品に観音様も龍も両方描かれていること。

何より一番の理由は、童子態として描かれた観音様に、かつて亡くした我が子の姿を思い重ねたためでした。


もう10年以上も前の悲しい出来事ですが、未だに「親子としての関わり」を模索し続けています。

この眠りはいつまで続くのか。現実はこの上なく厳しくて悲しかった。今でも、せめて「夢の中の出来事」であればまだ良かった、と思うけれど、それでも私たち夫婦の中で、我が子はいつまでも生き続けている。

そして図らずも我が子のの墓所となったこの寺の山号が「臥龍山」。

臥龍の懐で安らかに眠る童子を描いたこの絵は、私にとって愛らしくも悲しい作品に映りました。


育児をしてやれなかった我が子に、せめてこれまでの育児の代わりになれば。

そして、時とともに薄れゆくかもしれない感覚を、いつまでも忘れないために。


そんな思いで原画を購入する決断をしました。


そして、私が個展に行って寺を空けているときに、先代住職が入院し、そのまま遷化したという「因縁」がさらに加わってしまいました。

そういった個人としての供養がきっかけではありますが、お寺にこの絵を置くことで皆様にも純粋に絵画として、またそれぞれの「因縁」を投影させて、ご鑑賞いただけると幸甚です。


陶彩画『夢』は、毎年1月の初観音での前立仏としてお祀りした後、4月の大般若まで玄関の床間に祀ります(その後は奥書院に飾る予定にしています)。(住職 記)



宗淵寺/願興寺

島根県松江市にある曹洞宗寺院・臥龍山宗淵寺と、境内に奉祀されている出雲観音霊場第二十三番札所・新美山願興寺からのお知らせや山内行事の報告、さらに住職や寺族、檀信徒の日暮らし、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつづっています。

2コメント

  • 1000 / 1000

  • @Dohho確かに、原画には色が変わらない観音様にも肉感的な立体がありますね。またご覧になりにいらしてください。合掌
  • Dohho

    2024.03.20 04:14

    所謂、本物の陶彩画には温かみを感じます。表面の立体感が肉感的な温か味を出すのでしょうか。画題が観音様という事で余計にそう感じるのかもしれません。合掌